浅川ダム工事支出公金差止等請求
住民訴訟事件訴状
浅川ダム建設中止を求める住民訴訟原告団
2010(平成22)年3月19日
長野地方裁判所民事部御中
 
訴状
原告ら訴訟代理人
 弁護士 大門 嗣二    弁護士 松村 文夫    弁護士 山崎 泰正
 弁護士 内村  修    弁護士 相馬 弘昭    弁護土 一由 貴史
 弁護士 荒井 常晃    弁護士 安藤絵美子    弁護士 板谷健太郎
 弁護士 今村 義幸    弁護士 岩下 智和    弁護士 江口 伸介
 弁護士 岡田 和枝    弁護士 蒲生 路子    弁護士 河嶋 恒平
 弁護士 木嶋日出夫    弁護士 齋藤 泰史    弁護士 佐藤 芳嗣
 弁護士 武田 芳彦    弁護士 中島 嘉尚    弁護士 原  正治
 弁護士 松葉 謙三    弁護士 宮下 将吾    弁護士 村上  晃
 弁護士 山崎 典久    弁護士 山内 道生
浅川ダム工事支出公金差止等請求住民訴訟事件
訴訟物の価額  算定不能
貼用印紙の額  2万1000円

当事者の表示
  別紙原告目録、原告訴訟代理人目録、被告目録記載のとおり

請求の趣旨

1 被告は、浅川ダム建設請負契約の契約工事代金及びこれに関連する工事費・調査費に関して、 公金を支出してはならない。
2 被告は、村井仁に対し、金4億3326万7800円とこれに対する本訴状送達の翌日から完 済まで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

請求の原因

第1 前提事実

1 当事者
(1)原告
原告らは、いずれも長野県民である。
(2)被告
 長野県は、後記浅川ダム(以下、「本件ダム」という。)を設置し、本件ダム建設に係る工事費を支出する、あるいはこれまで支出してきた地方公共団体である。
 被告は、長野県の知事であり、本件ダム建設に係る工事費を長野県の予算から支出する権限と責任を有している者である。
2 長野県の浅川ダム計画及び本件工事の概要
(1)本件ダム計画の概要
ア 本件ダムの概要
 長野県(以下、「県」という。)は、長野市浅川一ノ瀬地籍において本件ダムを建設する計画を立て、1971(昭和46)年度より予備調査を開始し、後述の経緯のとおりの紆余曲折を経て、2009(平成21)年度よりダム本体の建設工事(以下、「本件工事」という。)に着工しようとしている。
 本件ダムの概要は、県が策定した2007(平成19)年8月「信濃川水系長野圏域河川整備計画(浅川)」(甲1)によると下記のとおりである。
             記
名   称  浅川ダム(治水専用ダム)
場   所  千曲川合流点より上流約14km
形   式  重力式コンクリートダム
堤   高  53メートル
堤 頂 長  165メートル
堤 体 積  14.1万m3
総貯水容量  100万m3
ダム集水面積 15.2平方キロメートル
目的洪水調節
 ダム地点への流入量130m3/sのうち、100m3/sの洪水調節を行い、下流域での洪水被害を防止する。

ダム上下流面図

ダム標準断面図
流量配分図
イ 本件ダム設計の基礎となっているデータ

治水安全度   1/100
計画雨量    130o/日
治水基準点   千曲川合流点
基本高水流量  450u/s
ダム地点の流量 130u/s
計画対象降雨  1986(昭和61)年9月2日

(2)本件工事の概要

 県は、上記(1)の計画に沿って、本件ダム建設の計画を進め、下記のとおりの本件工事につき入札を実施し、2009(平成21)年度内にも本件工事に着工しようとしている(甲1)。
 なお、本件工事については、すでに入札(予定価格82億1544万円)が完了し、大林組・守谷商会・川中島建設からなる特定建設工事共同企業体(JV)が52億円で落札し、県が低入札価格調査を実施の上、2010(平成22)年1月29日に県と前記JVが仮契約を締結している。

1 工事名  国庫補助事業治水ダム建設事業
   浅川ダム建設工事
2 工事場所  信濃川水系長野市浅川一ノ瀬
3 工事概要  重力式コンクリートダム
   堤 高 53.0メートル
   堤頂長 165.0メートル
   堤体積 14.1万m3
   基礎掘削 24万4600m3
   基礎処理工一式
   CSG地すべり対策工一式
4 工期契約日から2017(平成29)年3月10日まで
3 浅川の概略
 (1)浅川の概要
 浅川は、飯縄山に源を発し、支川と合流しながら、長野市北部山地、長野市北部住宅地を流下し、駒沢川等の支川を合流しながら、千曲川と合流する流域面積73平方キロメートル、幹川流路延長17キロメートルの信濃川水系に属する一級河川である(甲1)。
 流域は、東西約12キロメートル、南北約6キロメートルであり、長野市及び小布施町に属している。幹川上流域及び左支川の流域には主として山地が広がり、中流域には住宅地、下流域には農地・住宅地が広がっている。
浅川ダム流域図
(2)浅川における洪水被害と河川改修
ア 浅川は、かつて洪水被害を繰り返してきた川であった。
 かつての浅川は、河川改修が進んでいなかったため、上流から供給される土砂の堆積により、著しい天井川となっていた。
 県が策定した「信濃川水系長野圏域河川整備計画(浅川)」(甲1の4頁)の記載によれば、浅川における近年の浸水被害は26件ほどの被害があったとされている。ただし、いずれも浅川上中流域における被害ではなく、下流域における被害である。
イ 河川改修の実施(甲1)
 上記のような度重なる浸水被害対策として、県は浅川の河川改修工事を1977(昭和52)年頃から実施し、天井川の状態の解消を進めてきた。
 なお、県は、「信濃川水系長野圏域河川整備計画(浅川)」(甲1)において、浅川ダムの設置とともにさらなる河川改修(千曲川合流点から新田川合流点上流までの約7.2キロメートル区間及び県道他力橋から県道宇木大橋までの約2.2キロメートル区間)を計画している。
4 本件ダム計画の経緯
 本件ダム計画の経緯は、1971(昭和46)年に始まり、現在に至る長期間のものであって、その経緯の理解は本件訴訟の性質を理解する上で欠くことができないので、本訴状においてその経緯の概要を述べることとする。
 なお、2001(平成13)年に田中康夫知事(当時)により中止されるまでのダム(多目的ダム)を「旧浅川ダム」といい、その後、2007(平成19)年から村井知事により建設が進められているダム(治水専用ダム)を「本件ダム」というものとする。
(1)予備調査
 1971(昭和46)年に県の単独による予備調査が開始された。予備調査は、これに続く実施計画調査の事前調査であり、計画の立案及び地形・地質条件等によるダム建設の可否等を調査するものである。
(2)実施計画調査
 予備調査を経て、1977(昭和52)年度から、国庫補助事業浅川総合開発事業として、多目的ダム(治水・利水等を目的とする)として事業採択され、実施計画調査を開始した。
(3)建設工事(付け替え道路建設工事)
ア 県は、実施計画調査の後、1985(昭和60)年度から、本件ダム建設事業の国庫補助新規採択を受けるとともに、水道事業者の長野市長と「浅川総合開発事業浅川ダム建設工事に関する基本協定」を締結した。この時点での事業費は、125億円と定められていた。
イ 1989(平成元)年10月ころから、県は、付け替え道路(県道飯綱高原浅川線)の左岸ルート計画のための地質調査を開始した。
 県は、1993(平成5)年5月には、用地補償基準単価につき地権者の同意が得られたことから、用地買収を開始し、同年12月に、上記付け替え道路の建設工事に着工した。付け替え道路は、1996(平成8)年12月に完成し、供用開始された。
県が付け替え道路の建設工事に支出した金額は、最終的に、当初の全体事業費125億円を優に超える206億円にのぼった。
(4)旧浅川ダム本体工事をめぐる展開
ア 県は、1995(平成7)年3月に旧浅川ダム建設事業全体計画につき、建設大臣の認可を得た。
 その後、1996(平成8)年2月に、県は、総事業費330億円への変更増額について、長野市長と変更基本協定書を締結した。
イ 同月に、長野県住民が、県等に対し、旧浅川ダム事業に関する公金の支出の禁止や工事の差し止めを求める訴訟を長野地方裁判所に提起した(御庁平成8年(行ウ)第7号事件)。
ウ 1998(平成10)年3月、ダムサイト付近の一ノ瀬右岸の地すべり地で、深い地すべりが観測され、県は深度45メートルの深層すべりと推定し、地すべり対策を組み直した。
エ 1999(平成11)年3月、総事業費400億円へのさらなる変更増額について、長野市長と県が変更基本協定書を締結した。
オ 同年7月には、ダムサイト付近の地すべり等の地質問題に疑義が生じたことを受けて、県は「浅川ダム地すべり等技術検討委員会」(委員10名)を設置し、地すべりと断層に関する安全性の審議を諮問した。
 「浅川ダム地すべり等技術検討委員会」は、1999(平成11)年7月28日の第1回委員会から、7回にわたる委員会を開催し、県が行ってきた調査結果や地形・地質学的議論を踏まえ、浅川ダムにおける貯水池周辺地すべり及び第四紀断層等に関する検討が行われたとして、2000(平成12)年2月に長野県知事宛に意見書を提出した。
 しかしながら、同委員会においては、実質的な議論や検討が行われたものとは言い難い面があったこと等から、委員の奥西一夫委員(京都大学名誉教授)は、意見書に合意することができないとして、継続的な調査・検討の必要性を訴えたにもかかわらず、委員会は、残る9人の委員の意見をとりまとめ、浅川ダム建設予定地にダム建設の支障となるような問題はないとする意見書を提出するという異例の事態となった。
力 2000(平成12)年9月に、長野県住民が、旧浅川ダム事業に係る工事費等の支出の禁止等を求める住民訴訟を提起した(御庁平成12年(行ウ)第8号事件)。キ 同月、県は、旧浅川ダム建設工事本体工事契約を建設業者と締結した。
(5)田中康夫知事の政策による旧浅川ダム事業の中止
ア 2000(平成12)年10月に長野県知事に就任した田中康夫知事は、同年11月に旧浅川ダム本体工事を一時中止し、2001(平成13)年2月にいわゆる脱ダム宣言を発表した。
イ 2001(平成13)年6月に、長野県議会において、議員提案により「長野県治水・利水ダム等検討委員会条例」が成立し、同条例に基づき、長野県治水・利水ダム等検討委員会が設置されることとなった。
 田中知事は、同委員会に対し、浅川等を含む県内9河川に係る総合的な治水・利水対策等につき諮問し、2002(平成14)年6月に、同委員会は、浅川について、「総合的な治水・利水対策について(答申)」を提出した。
 同委員会浅川部会においては、A案として「ダム+河川改修案」、B案として「ダムによらない河川改修単独案」が検討され、同委員会の結論としてB案が採用、答申された。
ウ 同年6月、田中知事は、同委員会の答申を受け、長野県議会にて旧浅川ダム建設事業中止を表明し、同年9月、県は旧浅川ダム本体工事の請負契約解除を通知した。
エ 上記ウの旧浅川ダム建設事業中止を受け、前記平成8年(行ウ)第7号事件及び平成12年(行ウ)第8号事件について、原告が訴えを取り下げた。
(6)旧浅川ダム事業中止後
 2003(平成15)年8月に浅川流域住民で構成する浅川流域協議会が発足し、以後現在に至るまで17回にわたり開催された。同協議会は、2003(平成15)年12月の第8回協議会において、更なる河川改修を早期に実施することを求める提言書を提出した。2004(平成16)年10月に襲来した台風23号による浅川下流域の浸水被害を受けて、同協議会は同年11月の第11回協議会において、内水対策に取り組むことの重要性が表明された。
(7)村井知事の就任と本件ダム事業の推進
ア 2006(平成18)年9月に、村井仁氏が長野県知事に就任した。
 県は、同年11月に、「浅川に関して流域の皆様のご意見をお聞きする会」を開催したが、このとき、流域住民に対し、治水専用ダムの案が示されることはなかった。
イ 2007(平成19)年2月8日、村井知事は「浅川の治水対策、河川整備計画」の方針を公表し、県の浅川整備事業に関する方針は、治水専用ダム(穴あきダム)と河川改修を組み合わせた対策を進めるという方針に突如として切り替わった。
ウ 翌日の2月9日には、当時の副知事及び上木部長が、浅川総合治水対策連絡協議会(浅川問題につき協議する住民団体)に対し説明を行った そして、その2日後の同月n日には、村井知事及び県幹部が、長沼地区北陸新幹線対策委員会に対して、本件ダムの計画決定・ダム建設の方針を説明し、新幹線用地交渉への協力と理解を要請した。この際、村井知事は、「概ね10年以内での完成を目標とする」「その前にできるだけ早く用地を取得させていただきたい」などと、本来関係のない本件ダム建設と北陸新幹線の用地買収とを関連づけて、説明を行った。
エ 同年6月、県は、本件ダム工事を含む河川整備計画の案につき、長野 市長、小布施町長からの意見を聴取し、両者は同意した。
オ 県は、2007(平成19)年7月に上記イの方針を内容とする「信濃川水系長野圏域河川整備計画(浅川)」の認可を国土交通省に申請し、同年8月、国土交通省が認可した。
カ 県は、2008(平成20)年7月に2回(一般向け)、同年8月に1回(長野県議会議員向け)の浅川ダム水理模型実験を京都府宇治市において実施した。
キ 県は、2009(平成21)年5月、第17回浅川流域協議会において、浅川ダムの模型実験と詳細設計について説明し、同年11月、浅川ダム本体工事(本件工事)の入札を実施した。
ク 同年10月、政権交代に伴い国土交通相に就任した民主党の前原誠司国土交通相が国直轄ダムの中止、見直し方針等を発表し、同年12月には、道府県知事宛に「『できるだけダムにたよらない治水』への政策転換に対するご協力のお願い」(甲2号証)を送付するなどしてダムにたよらない治水の在り方を検討するよう要請した。
ケ 県は、上記国交相の要請にもかかわらず、2009(平成21)年H月から12月にかけて本件ダム本体工事の入札手続を進めた。
 2010(平成22)年1月、大林組・守谷商会・川中島建設からなる特定建設工事共同企業体(JV)が本件工事を落札し、県は、低入札価格調査の上で、同月、上記JVと本件ダム本体工事仮契約を締結した。
コ 同年3月9日、前原国交相は、浅川ダムが本年度内に本体着工を予定しているほど手続が進んでしまっていることなどに触れた上で、2010(平成22)年度政府予算に国の補助金を計上することを表明した。
サ 同月12日、長野県議会は、本件工事の契約議案を可決した(賛成41、反対13)。
 県は、2009(平成21)年度中の着工を目指すとして、本件ダム事業に通達している。

第2 浅川ダムの危険性

 1 本件ダム建設予定地周辺地域の特徴

 本件ダム建設が予定されている浅川上流域は、長野市西縁断層地帯に位置しており、また、フォッサマグナ第一級の津南─松本構造線、信濃川断層帯の直上に位置する危険な地質構造をもつ地帯である。
 そして、本件ダム建設予定地周辺の地域は、そのような巨大構築物の建設場所としては地質条件が脆弱劣悪で、決して適切な場所ではないことは明らかであり、その結果、災害防止どころか、ダム建設による災害の誘発が危倶されているのである。
(1)訴状添付図面(浅川ダム計画の「危険マップ」、以下「危険マップ」という。)は、本件ダム周辺の地形と地質について理解を容易にするため、長野市が作成した「ながの防災マップ」を原図として、内山卓郎(本件原告)が地質報告書等の文献から作成したものである。
 これを見ると、本件ダム周辺には、地すべり防止区域、砂防指定地、断層、クリープ性ゆるみゾーンなどが集中しており、1847(弘化4)年に発生した善光寺地震(マグニチュード7.4)の震央が至近距離にあり、かつ、市街地に極めて近接していること(ほぼ1kmあまり)が一目瞭然である。
 @からEまでの青く着色した区域には、地すべり等防止法によって指定された地すべり防止区域が存在する。@の一ノ瀬指定地の対岸に、これとほぼ対称の一ノ瀬左岸地すべり地(面積約10ha)がある。この部分は地すべり防止区域の指定はないが、かつて善光寺地震の際に地すべりを起こした区域である。
 赤色の帯状の点によって囲まれた地域は砂防法によって指定された砂防指定地である。
 J、Kに県の調査によって判明したクリープ性ゆるみゾーン(ごくゆっくり滑動するとみられるゾーン)が存在する。
 Lは、奥西一夫氏(京都大学名誉教授)指摘の大規模地すべりの推定範囲である(一ノ瀬右岸、左岸地すべり地を中心としている)。
 Mは、小坂共栄氏(信州大学元教授)が指摘するダムサイト右岸山地の岩盤すべりの推定範囲である。
 ダムサイトから善光寺地震の震央までの距離は北北東に1.5キロメートルである。(本件ダムは、この地図作成当時からダム軸の位置を約20メートル上流側に移動させた。)
 FからIまでの赤と緑の実線や破線のうち、赤のFの1から3は、1988(昭和63)年3月作成の「長野市防災基本図」の中の「表層地質図」に推定及び伏在断層として図示されていたものである。
 このうち、ダム地点直下に迫るFの2の推定断層は、県の地附山地すべり機構解析検討委員会が1989(平成1)年5月にまとめた「地附山地すべり機構解析報告書」の地質平面図上に、推定断層として図示されたものと同一である。
 緑のG、Hは県が実施した1980(昭和55)年度活断層調査の結果図示された断層で、Gが上松断層、Hが真光寺断層と名付けられている。緑のIの1〜3は、県が実施した1988(昭和63)年度貯水池地すべり調査の横坑調査で確認された推定断層及び大規模な破砕帯として付図で図示されたものである。
 F−V断層F−9断層は、2001(平成13)年〜2002(平成14)年、松島信幸氏(理学博士)指導で実施された、掘削トレンチ調査で確認されたものである。
 OからSまでは、鉱泉や石油、天然ガスがかつて湧出していた地点であり、地附山からダム地点へ伸びる断層Fとほぼ一致している。
 以上、要約すれば、本件ダムの周辺地域は、半径2km以内に地すべり等防止法の地すべり指定地6区域(面積計301.44ha)と未指定の地すべり地が密集している地域であり、同時に砂防指定地という二重の地域指定がなされ、’地質条件の脆弱性と劣悪さが際立っている場所である。この地域には、地附山地すべりと同じ裾花凝灰岩が広く分布し、これらは、地附山と同様に熱水変質によりスメクタイト化し、地盤を脆弱化させている。
(2)過去に浅川では、先に述べた善光寺地震時の地すべりと土石流による大災害(死亡者不明)及び年1939(昭和14)年4月の論電ヶ谷池の堰堤決壊による土石流災害(死者19名)などの大災害が発生している。
 以下、このような地域に本件ダムのような巨大構築物を建設することが如何に不適切で、危険なものであるか、具体的に指摘する。

 2 本件ダム建設の危険性(その1)─ダムサイトの地質

 本件ダムサイトの裾花凝灰岩の地質は、熱水変質を伴いスメクタイト化しており、河床から左右両岸にかけて熱水変質した地質が大量かつ広域に分布している。これは地附山地すべりの裾花凝灰岩のモンモリロナイト化と類似、共通する地質条件である。これらの粘土鉱物は、水を含むと膨潤する性質を有するもので、巨大構造物設置の地盤としては極めて不適で、危険なものといわなければならない。

 3 本件ダム建設の危険性(その2)−断層の存在

(1)本件ダム周辺には、危険マップにみるように、多数の断層が存在する。
 活断層上、あるいはその近傍にダムが建設されるようなことがあってはならない1978(昭和53)年3月、建設省(当時)のrダム建設における第4紀断層の調査と対応に関する指針(案)」)が、県は、これらの断層の存在を無視し、否定してきた。
 危険マップのFの1及び2は、長野市が1988(昭和63)年3月、地附山地すべり発生を契機として作成した「長野市防災基本図」の表層地質図が、ダムサイトを横断する断層線と推定及び伏在断層線を図示し、1989(平成1)年5月の「地附山地すべり機構解析報告書」の地質図がダム地点直下約100メートルの位置に迫る推定断層を図示し、浅川断層と名付けていたものである。
 Iの1、2及び3は、県の調査によって判明した断層と破砕帯である。この「一ノ瀬地すべり地と貯水池を横断する断層」については第四紀断層である可能性は極めて高いものであるが、県は、個々の断層の長さ、深さ、地層のずれ、地表の変位の有無、活動度の判定、さらにその判定方法等を明らかにしないまま、この断層の存在そのものを否定してしまった。
 F−V断層とF−9断層については、県の「治水・利水ダム等検討委員会」(宮地良彦委員長)は、2002(平成14)年6月、答申のなかで、「地質とダムの安全性」に関するまとめとして、「ダムを実施する場合にはF−V断層の活動性と下流部への延長を確認し、F−9断層と線状凹地との関連性について再調査を必要とする」と指摘した。しかし、県は、再調査を実施することなく、本件ダム建設の方針を打ち出した。

 4 本件ダム建設の危険性(その3)−地すべり誘発の危険

(1)浅川を挟んで貯水池の左右両岸にそれぞれ面積約10haの相似形の大規模地すべり地(一ノ瀬)があり、右岸の約7haは現に地すべり防止区域に指定されている。(1991(平成3)年3月の雪解け時に右岸で地すべりが発生した。)
 旧浅川ダム計画では、貯水池の湛水後にはこの2つの地すべり地の末端部を水没させることになっていたが、これは延長約350mにわたって地すべり地を帯状に水没させ、地すべり地の地山へ水を供給することになり、地すべりを誘発する危険な計画だと指摘されていた。この危険性は、本件ダムについても同様に指摘できるものである。
(2)県は、一ノ瀬地すべりについて1980(昭和55)年度に左岸から貯水池地すべりの調査を開始し、1983(昭和58)年度から1985(昭和60)年度の調査で右岸の深層地すべりの存在の可能性を認識していた。1999(平成11)年5月、県は、市民団体に対し、最低推定深度45mのすべり面があることを認めた。
しかし、実際のすべり面は45mよりもまだ深い可能性がある。これは、地すべりが発生したときの想定被害の大きさや地すべり対策工事費用の巨人化に関係する。

 5 本件ダム建設の危険性(その4)一深層大規模地すべりの可能性

 危険マップ中のLは、奥西一夫氏(京都大学名誉教授。「浅川ダム地すべり等技術検討委員会」委員(当時))が指摘する大規模地すべりである。すべり面の深さは、県の推定する45mよりも深い可能性があり、もし、貯水時に、このLの大規模地すべりが起これば、水はダムを越えて溢れでることとなり、深刻な災害が発生する事態は否定できないであろう。

 6 本件ダム建設の危険性(その5)−ダムサイト右岸の断層と岩盤地すべりの可能性

 1999(平成H)年11月、小坂共栄氏(信州大学元教授)は、危険マップ中のMのとおり、右岸の岩盤地すべり推定範囲を明らかにした。この岩盤地すべりがあった場合には、ダムの本体そのものが決壊するという可能性さえある。
また、そこまでには至らないとしても、貯水池に大量の土砂が崩落することによって、越流による大被害が発生する事態を充分に予測できる。
 小坂氏の現地調査によって、薬師山の尾根平坦部とダムサイト側山腹の斜面上に幾条もの溝状地形(地溝状凹地・ドリーネ)と穴状地形(シンクホール)が存在することが判明した。こういう地溝状ドリーネは、まさに地附山地すべりの際に滑落崖上部に存在した地形と類似共通するものであり、地すべり発生の徴候といえるものである。

 7 本件ダムの洪水調節機能自体による災害発生の可能性

(1)洪水のときが危険
 本件ダムは、ふだんは水を貯留しない、洪水調節専用のダムとして計画・設計されているが、集中豪雨などにより本件ダムが予定された洪水調節機能を発揮すると期待されているその時機こそ、地すべりの発生による越流、ダムの決壊などの危険性が最も高くなり、本件ダムの危険性が顕現するときなのである。
(2)洪水減衰期の急速な水位変動による地すべりの誘起
 通常、試験湛水に際しては、水位の低下は1日1m程度の速度で行われるが、本件ダムの洪水調節機能では、貯水池水位は洪水減衰期に急降下する仕組みになっている。すなわち、1982(昭和57)年型洪水波形では、13時間で水位は38m急降下し、4時間では24.5m、1時間では13m急降下すると予測されているが、このような洪水調節時における、水位の急速な大”.
きな変動が地すべりを誘起するのである。
 このようなことが生じるのは、貯水池面積が小さい中でダムの貯水容量を確保するため、ダムの高さを大きくしたという、ダム計画上の無理があるからである。
(3)本件ダムの「穴づまり」の問題
 本件ダムの常用洪水吐の「穴」は、高さ1.45m、幅1.3mという大きさで、河床勾配の小さい約60mのトンネル状の水路で水を流す。ダム上流部には、長径50cmから1mを超える飯縄火山礫は珍しくなく、また、土石流、山腹崩壊、地すべり、自然ダムの決壊など土石、流木、ゴミが生産され流動する可能性は否定できず、本件ダムの常用洪水吐が「穴づまり」する可能性は極めて大きい。
 因みに、礫を通過させない砂防ダムの設計基準では、コンクリートスリットによる場合、スリット幅は、最大礫径の1.1〜1.5とされている。これによれば、本件ダムの∫穴」は、最大径86センチ以上の礫は確実に止めるものと考えられるし、直径数十センチメートルの礫は集合流動すると相互に絡み合ってr穴」を塞ぐことがあり得る。
 「穴づまり」を起こせば、本件ダムは洪水調節専用ダムとしての存在価値はなくなり、長野市民は、市街地の近くに、何時、決壊、越流を起こすかもしれないダム湖を抱え、不安な毎日を過ごすことになるわけである。
(4)試験湛水が危険
 県は、本件ダムの安全性は試験湛水によって検証されるとしているが、実際は、本件ダムが試験湛水が最後まで実行されるかどうか自体が疑問視されているのである。

第3 浅川ダム建設の必要性の不存在

 1 ダムがなくとも上中流域に水害は起きず、ダムがあっても下流域で水害は起こる

(1)浅川ダムは専ら治水のために建設が計画されている。
 そこで、治水効果がないことを、上中流域の水害と、下流域(千曲川合流地点)の水害とに区別して論ずる。
(2)上中流域の問題
 浅川では、洪水と共に土砂が流出氾濫することにより、平地部にさしかかる浅川東条付近から平地部にかけて緩やかな傾斜地となる扇状地が形成されている。
 扇状地が農耕等の土地利用の進行に伴い、洪水の氾濫防止のために河道が固定され、その結果、河床が周辺地盤の高さより高くなる所謂『天井川』が形成された。天井川の状態にあったときは、堤防が決壊すれば急勾配河道から土石を含んだ大量の洪水が溢れ出すこととなることから、災害時の被害ポテンシャルは格段に大きなものであった。
 しかし、河川改修が実施されたことにより、天井川は全面的に解消された。
中流域においては、昭和14年の論田ヶ谷池決壊による土石流以降、70年余にわたり水害はない。かかる事実から、当該区間における水害の懸念がないことが分かる。
(3)下流域(千曲川合流点)の問題
ア 災害の原因と現在の施設
 前記のとおり、浅川の上中流域における災害は1939(昭和14)年以降発生しておらず、以降浅川で発生している水害は専ら浅川が千曲川に合流する地点におけるものである。
 この原因は、増水時には浅川の水位より千曲川の水位が高くなってしまい、そのままでは千曲川の水が浅川に逆流してしまうため、合流地点の樋門を閉じるためである。樋門を閉じる結果、浅川を流れてくる水は行き場を失い、浅川流末を水浸しとすることとなる。1983(昭和58)年9月の洪水時でいうと、浅川の内水氾濫水位が標高332.0mであったのに対し千曲川の水位は336.3mに達し、実に千曲川の水位の方が4.3mも高くなった。
浅川合流点(54km)付近の千曲川横断面図
 樋門閉塞時に浅川の水を汲み上げて千曲川に流すため、浅川排水機場に排水ポンプが設置されている。現在の排水能力は44u/秒である(将来的には、70u/秒に増強する計画がある)。
 この排水ポンプも、千曲川の氾濫を防ぐため、合流地点の下流にある立ヶ花地点の水位が計画高水位10.75mに達すると停止することとなっている。そうなると、いよいよ浅川の水は行き場を失い、溢れる外なくなることとなる。
イ 浅川ダムが下流域の水害への対策として有害無益であること
(ア)そもそもダムがあっても合流点における内水災害は防げないとする見解は、2000(平成12)年11月22日、県の光家元十木部長がその旨を発言して以来、県土木部の公式見解となっていた。
 本件監査請求における県の主張を見ても、浅川における洪水は、その発生原因から、外水災害と内水災害があるところ、浅川ダムは河川改修と併せ、外水氾濫による家屋等への浸水被害を防止することを主たる目的として計画された治水専用ダムである旨が記されており(甲3,監査結果6丁エ)、浅川ダムを内水災害への対策とするとの立場をとっていないことが示されている。
(イ)なお、県の主張によれば、本件ダムは合流地点の浅川の流量を4舳u/秒から350u/秒に減ずる効果があるとのことである(この基本高水が過大であることは後に述べる)が、前記のとおり浅川排水機場の排水能力が44u/秒(将来的にも70u/秒)しかないことからすれば、ポンプの能力が過小なのであって、浅川ダムを以てしても内水災害を防ぎ得ないこととなる。
(ウ)むしろ、浅川ダムは内水災害を助長することになりかねない
 ここに、2004(平成16)年10月の台風23号の際の、千曲川立ヶ花地点における水位・流量変化と共に、当日の浅川河口部の概算流量の変化をグラフにして以下にに示す(浅川河口部の概算流量は、富竹観測地点流量に、富竹地点から浅川河口までの間の洪水伝搬時間を約30分として、それだけ時間シフトして求めた)
立ケ花流量と水位、浅川河口流量
 この図から分かるのは、千曲川本流と浅川のそれぞれにおける出水の間には大きな時間的なずれがあることである。即ち、10月21日1時には浅川洪水の主要流出は終わっているが、一方、千曲川では同時刻以降、水位が約3.7m上昇しており、流量のピークは同時刻以降8時間経過して現れている。
 前記のとおり、千曲川の水位が上がると合流部の樋門が閉じられてしまい、浅川からの排水は浅川排水機場のポンプに頼ることとなるが、このポンプの排水能力は増水時の浅川の流量を下回る。立ヶ花地点の水位が計画高水位10.75mに達すると排水ポンプが停止することとなっている。そうなると、いよいよ浅川の水は行き場を失い、溢れる外なくなる。
 このケースでいえば、浅川合流点の水害を防止するためには、浅川の水をできるだけ早急に、即ち千曲川の水位が高くならない内に排出することが有利となる。
 以上から分かるように、浅川ダムは、ダムがなければ速やかに浅川 この図から分かるのは、千曲川本流と浅川のそれぞれにおける出水の間には大きな時間的なずれがあることである。即ち、10月21日1時には浅川洪水の主要流出は終わっているが、一方、千曲川では同時刻以降、水位が約3.7m上昇しており、流量のピークは同時刻以降8時間経過して現れている。
 前記のとおり、千曲川の水位が上がると合流部のから千曲川に流出したはずの水を溜め込み、千曲川の水位が上昇して浅川の水が千曲川に流出されなくなってから合流部に送水することで、災害を助長する場合がある。
(4)以上から、浅川ダムは浅川上中流域の水害の防止には何ら有用でなく、千曲川合流地点の内水災害についてはむしろ助長するものであると結論づけられる。
 2 基本高水の過大性
(1)前記のとおり,浅川については千曲川合流地点で治水安全度1/100において基本高水流量が450u/sに設定されている。言い換えると、浅川の基本高水流量450u/sは平均して100年に1回発生するとされている。
 この「基本高水流量」とは,河川の各地点に、ダムや遊水池、放水路など洪水量を調節する施設が無い状態でのピーク流量を意味し、治水計画を立てる上で基本となる流量となる。なお、流量の時間的変化は、「基本高水」
といわれ、「ハイドログラフ」とも言われる。
 即ち,基本高水流量および基本高水はダムを設計する上での基準的な数値である。
 一般論として基本高水が小さければダムは不要となり、また基本高水が大きければ大きいほどダムの規模が大きくなる。
 本件ダムでは、基本高水を過大に設定することにより、不要なダムの建設を正当化しようとしているのである。
 以下に,基本高水の算定方法を説明し,合わせて如何にして基本高水が過大に見積もられているのか,その概略を述べる。
(2)流量観測が不十分なために、降雨量から流量を推定し、「基本高水流量」
を設定する。
 前提の降雨量も、浅川流域だけの観測がないために、長野観測所の観測雨量からいくつかの方式から選んだ方式で算定している。
 その結果、「計画雨量」を130o/日とした。
 昭和元年から平成2年までの65年間における主要洪水10について「計画雨量」130o/日に引伸ばして、降雨波形を作成する。ここでも、引伸ばし方法によって波形も異なって来る。
(3)この降雨量(降雨波形)から流量を算出する方法として「貯留関数法」「合理式」等がある。長野県は基本高水流量を算定するのに「貯留関数法」を採用し、「合理式」で検証している。
 「貯留関数法」には、多くの定数がある。この定数の設定如何によっては算出される流量も大きく異なる。
 定数を定めるのにあたっては、現実に降雨量とともに流量(水位)を算出してある洪水について、降雨量に定数をあてはめて作成されるハイドログラフと現実の水位から算出された流量による波形とを比較して適合しているものを選んだとする。しかしその対象としているのはわずか4洪水しかなく、その適合性も必ずしも良好とは言えない。
 これによって定められた定数を先の10洪水(降雨量を引き伸ばしたもの)に適用してハイドログラフを作成し、その中から選択する。
(4)選択されたのは、主要10洪水のうち最大のピーク流量となった昭和61年9月洪水である。
 61年9月洪水には、短時間にまとまった降雨があったものの、日雨量(実質的には10時間)65o、ピーク値16o/時に過ぎないが、計画日雨量130o/日に引き伸ばした結果,ピーク時雨量32o/時となり集中型の降雨波形となり、これを前提に「貯留関数法」で算出すると、ピーク流量は440u/sとなった。そしてこのピーク流量に10u/sを上乗せして基本高水流量を450u/sとなった。
(5)このように、基本高水流量は、「貯留関数法」により算出されるものであって、現実の降雨による流量そのものではない。
 その結果、「計画雨量」を130o/日とした。
 昭和元年から平成2年までの65年間における主要洪水10について「計画雨量」130o/日に引伸ばして、降雨波形を作成する。ここでも、引伸ばし方法によって波形も異なって来る。
 「基本高水流量」の決定は、ピーク流量の最大値を示した昭和61年9月洪水を選んだのであるが、その昭和61年9月洪水も降雨量を2倍に引き伸ばしてピーク流量を算出したものであり、これらにより、治水安全度1/IOOにおける基本高水流量450u/sは過大となっているのである。
 このような過大な基本高水流量に基いて不要なダムがさらに過大な規模に計画され、正当化されているのである。

第4河川法手続き上の違法

1 突然の穴あきダム決定
(1)本件ダム計画は、前記したとおり2000(平成12)年11月に一時中止、2002(平成14)年6月に中止と決定していたものであるが、被告は、2007(平成19)年2月8日治水専用・穴あきダムの建設を発表した。
 そして、被告は、同年4月18日に、浅川の河川整備計画として、浅川上流部に、高さ53メートル、上部巾165メートルの、「穴あきダム」を建設するとの「原案」を発表した。
 ひき続いて被告は、同年7月に国上交通省に対し認可申請を行い、国上交通省から同年8月に認可を得た。
(2)しかしながら、上記手続は、以下に見るとおり、河川法第16条の2の規定の趣旨に違反するものである。
2 事前の意見聴取の欠如(手続違反(1))
 浅川ダム建設について、2007(平成19)年2月8日に発表された計画は、その後4月18日発表された「原案」でも基本的に同じである。
 ところが、被告は、4月24日と25日住民説明会、5月18〜20日公聴会、5月9日・6月6日・同月12日学識経験者意見聴取を行ったのであるが、いずれも、2月8日発表、4月18日「原案」発表後である。
 被告が行なった住民からの意見聴取も、また学識経験者からの意見聴取も、河川法16条の2第3項・4項の規定の趣旨からすれば、計画案が固まる以前に行わなければならないものであり、被告の公聴会の開催等は、法の定めを満足するための手続きとしてとりつくろったのに過ぎない。
3 代替案の検討の欠如(手続違反(2))
 河川法16条の2第3項・4項の規定の趣旨からすれば、本件においては、代替案の検討がより本質的な、重要な事柄である。その理由は、@本件ダム建設問題については、過去にいったん中止された経過があること、Aダム建設予定地周辺の地形地質条件に問題があり安全性が問われていること、B基本高水流量の設定が過大であり実情に即していないとの指摘があること、C下流域の内水災害はダム建設予定地となる上流域の問題ではなく、本質的には千曲川の水位上昇と排水機能の問題が原因であり、ダム建設は必ずしも下流域の内水災害対策とはなりえないこと、などが指摘されてきたからである。
 このような経過からすれば、本件ダム建設以外の方法による代替案も示した上で、河川整備計画を決定することが重要なのである。
 3項の趣旨は、計画の客観性公平性を確保するに当たり、案が固まった段階で学識経験者の意見を聴くのではなく、代替案との比較を行うなど様々な角度から学識経験者の意見を得る必要があるとされていることにあるが、被告は、この趣旨に反して、穴あきダムを建設することを前提とし、代替案との比較を行わなかった。即ち被告は3項の趣旨に反したものである。従って、4項に定める住民の意見の聴取の際にも、穴あきダムを建設することを前提としたものであり、本来であれば代替案も含めた情報を住民に提供し、住民から十分配慮された意見の聴取がなされるべきであるのに、被告はこれを怠ったものであり、4項の趣旨にも反したものである。
4 新幹線用地買収目的を優先(手続違反(3))
 本件ダム建設計画の突然の発表は、経過からすれば、浅川水害とは直接関係のない、北陸新幹線用地買収対策をスムーズに進めることを優先させたものである。県知事・副知事・上木部長らは、同年2月9日と11日、浅川下流部の長沼地区へ出向き、浅川総合治水対策連絡協議会と長沼地区北陸新幹線対策委員会に対し、2月8日の発表資料を用いて浅川ダム建設の決定と実施を説明し、併せて新幹線用地買収交渉への理解と強力を要請した。そして説明の中で、浅川ダムについて「概ね10年以内の完成。新たな確認書の締結」
を約束した。
 この経過と知事らの発言からして、本件ダム建設計画は、浅川の河川整備という本来の目的から外れたところで、新幹線用地買収促進目的を優先させて決定されたものと判断せざるを得ないところである。
5 結論
 被告の本件穴あきダム建設に関する河川整備計画は、その決定手続きにおいて河川法16条の2の規定の趣旨に反するものである。

第5 本件支出

1 県は、このような本件ダム建設のために2008(平成20)年度以降、調査費や工事費等を支出してきた。
 2008(平成20)年12月22日以降に同21年度末までに支出された本件ダムにかかる工事費用等は、別紙のとおり、4億3326万7800円である(一部支出予定を含む)。
2 県は、2010(平成22)年度以降、本件ダム建設工事費等を予算化した。
 被告は、株式会社大林組などの企業共同体と本件ダム建設工事請負契約を締結して、本件ダム建設及びその関連工事のために公金を支出しようとしている。

第6 違法性

1 本件ダムの問題点(要約)
(1)本件ダムは、洪水対策には全く効果のない無用・無駄なダムである。
 しかも、本件ダム周辺地域の特性から、地すべり対策工事などの関連工事にダム本体工事に匹敵する多額の費用を要する。
(2)本件ダムの「穴」(常用洪水吐)は、供用開始後短期間のうちに「穴づまり」する蓋然性は極めて高い。
 本件ダムが、その設置目的から見て、無用の長物化する蓋然性が高い。
(3)本件ダムは、「穴づまり」が生ずれば、旧浅川ダムと同様、ダム湖両岸の地すべり地の地山に水を送り込み、地すべりを誘発する危険な状態を惹起する。地すべりが発生すれば、ダム湖が越流し、重大な災害の原因となる。地震が重なって大規模な地すべりが発生すれば、その災害はさらに重大なものとなる。
(4)本件ダムが、集中豪雨などの際にその設置目的どおりの機能を発揮したときは、洪水減衰期に貯水池水位の急激な低下をもたらし、ダム湖両岸の地すべり地の地すべりを誘起する。
(5)長野県は、本件ダム建設を含む浅川河川整備計画決定手続には、この計画を他の政治的目的に利用しようとして、河川法上の手続の履践を怠った違法がある。
2 公金支出の違法性
(1)被告は、このような問題点を含む、違法な本件ダム建設のために、2009(平成21)年末までに前項に記載したとおりの公金の支出を行い、さらに2010(平成22)年度以降、ダム本体工事及びその関連工事のために、国庫補助金とあわせて、長野県予算から多額の公金の支出を行おうとしている。
 地方公共団体が、公金を使って、無駄で無用な工事を行うことが許されるわけはない。また、住民の生命・財産をそこなうおそれのある構造物の建設が許されることはない。
(2)長野県は地方公共団体として、「住民の安全、健康及び福祉」を保持し、増進するところにその存在理由を有するものである。
 そのような地方公共団体に関して、地方自治法第2条14項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない」
と定めている。
 地方財政法は、「地方公共団体は、・・・・合理的な基準に従いその経費を算定し、予算に計上しなければならない」(第3条1項)、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて、これを支出してはならない」(第4条1項)、「地方公共団体は、予算を編成し、若しくは執行し、又は支出の増加若しくは収入の減少の原因となる行為をしようする場合においては当該年度のみならず、翌年度以降における財政の状況をも考慮して、その健全な運営をそこなうことがないようにしなければならない」(4条の2)と定めている。
(3)被告の本件ダム建設工事及びこの関連工事への公金の支出は、これらの規定に違反するものである。
 従って、被告は、このような違法な公金の支出をしてはならない。また、被告は違法な公金の支出をさせないように、その権限を適正に行使しなければならない。
3 被告個人の損害賠償請求責任
 被告は故意もしくは過失により、前項記載の違法な公金の支出をし、またはさせたものであるので、長野県に対して本件支出額相当の損害を与えたものである。被告は、個人として、長野県に対して損害を賠償する義務を負っているものである。

第7 監査請求の前置

 原告らは、2009(平成21)年12月22日及び同22年1月8日、被告らの違法な公金の支出等につき、長野県監査委員に対し、地方自治法242条1項に基づいて監査請求を行ったところ、同監査委員は、同22年2月19日付をもって、原告らに対して監査請求にかかる原告らの請求には理由がないとする通知を行った(甲3)。

第8 結論

 よって、原告らは被告らに対して地方自治法第242条の2第1項1号、4号前段に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。
 証拠方法
  甲1号証  信濃川水系長野圏域河川整備計画(浅川)
  甲2号証  『できるだけダムにたよらない治水』への政策転換に対するご協力のお願い
  甲3号証  長野県職員に関する措置請求の監査結果
  その他必要に応じて提出する。
添付書類
  1 甲号証(写し)
  2 訴訟委任状
(別表)2008(平成20)年12月22日〜2008(同22)年3月31日の浅川ダム関連建設工事関連支出額
  工事名 契約額(円) 最終支出日
1 平成19年度県単河川改修事業に伴う設計業務委託(浅川ダ厶水利模型実験) 59,073,000 平成21年4月22日
2 平成19年度県単河川改修事業に伴う設計業務委託(ダ厶本体概略設計評価業務) 33,568,500 平成21年4月17日
3 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う設計業務委託くダ厶詳細設計及び施工計画) 114,765,000 平成21年10月7日
4 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う設計業務委託(ダ厶本体詳細設計評価業務及びダ厶耐震性能照査・評価業務) 31,374,000 平成22年1月15日
5 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う環境調査業務委託(環境影響評価) 26,953,500 平成21年7月3日
6 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う環境調査業務委託(環境調査) 37,464,000 平成21年7月3日
7 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う観測業務委託(地すべり観測) 6,741,000 平成21年4月22日
8 平成20年国補治水ダ厶建設事業に伴う流量観測業務委託(水位流量観測) 3,990,000 平成21年4月22日
9 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う設計業務委託(ダ厶施工計画及び施工設備実施設計 70,455,000 平成21年11月20日
10 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う設計業務委託(調査・算定業務(漁業補償)) 9,975,000 平成21年8月28日
11 平成20年度国補治水ダ厶建設事業に伴う測量一設計業務委託(測量・設計業務) 8,022,000 平成21年7月18日
12 平成21年度国補治水ダ厶建設事業に伴う観測業務委託(地すべり観測) 5,581,800 現在実施中
13 平成21年度国補治水ダ厶建設事業に伴う流量観測業務委託(水位流量観測) 2,709,000 現在実施中
14 平成21年度国補治水ダ厶建設事業に伴う建設資材価格調査業務委託(資材価格調査) 4,809,000 平成21年10月16日
15 平成21年度国補治水ダ厶建設事業に伴う設計業務委託(地すべり抑止工詳細設計) 4,861,500 平成22年1月4日
16 平成21年度国補治水ダ厶建設事業に伴う環境調査業務委託(環境モニタリング調査) 5,848,500 現在実施中
17 平成21年度国補ダ厶建設(治水ダ厶)事業伴う用地測量等業務委託(測量業務) 5,565,000 平成21年12月9日
18 平成21年度国補ダ厶建設(治水ダ厶)事業伴う用地測量業務委託(測量業務) 1,512,000 平成21年9月14日
  433,267,800  
(2010(平成22)年2月19日現在)
浅川ダム計画の「危険マップ」